快適であったはずのエリニア発オルビスゆき88便は,突如ゴーストシップと化した.
「なっ!」
「ぐぇw」
「おいおいw」
上空からバルログが降ってきた.
バルログというのは,ビクトリア大陸最強の敵でダンジョンの最奥に住んでいる.通常は4人パーティで臨む敵であり,少なくとも今の僕らのレベルの倍以上は必要になるほどの強敵である.勿論通常のMAPに自然発生する事というのはありえないのだが,どうも魔法使いの召喚というパワーで呼び出しが可能らしい.
僕とソードマンさんはオルビスゆきの船の甲板に居た.ぼんやりと話をしていると,バルログが私たちの真上に現れた.動物園以外で初めて見たこのバルログに対し,エンゲージ態勢に入り槍を構える.
奴は空中を軽々と飛び,僕とソードマンさんに当たってきた.
ダメージ2000.
僕たちは慌てて船内へ逃げこんだ.
「いってぇ....」
「なんですかあれ....」
「ん.多分誰かが召喚したんだろう.ここでも召喚可能なんかよ・・」
「よく耐えたなぁしかし」
「あたし,HP残り16でした..」
奇跡的に生き残った僕とソードマンさんのHP回復が終わるか終わらないかのうちに,他の客がつぎつぎと外をのぞきに行ったのだが.のぞきに行った人数と船内へ帰ってきた数が等しくない.乗船した時には12人ほど居たはずなのだが,ふとあたりを見回すと6人になっていた.
「随分減ったね;」
不意にソードマンさんが外へのハシゴに手をかけたのを制止して,僕がもう一度外へ出て見た.
バルログはドアのすぐ前に居た.見えた瞬間に墓がドロップしてきた.しまった!食らった!
やってしまったという衝撃に一瞬目を瞑った.
再び目を開けると,自分の横で幽霊になった別のファイターが悲しげに浮かんでいた.南無若きファイターよ.
船内へ戻ると,5人になっていた.
ふと,思い出した様に三度傘の賊がつぶやいた.
「ねぇ」
「あれって,オルビスに着いた時にも居るのかな....」
勘弁してくれよ.....